採用競争が激化するなか、多くの組織は「優秀な人材を確保するには給与を引き上げるしかない」と考えがちです。しかし、給与を高く設定するだけでは採用課題は解決しません。確かに内定受諾にはつながりやすくなりますが、意欲・パフォーマンス・定着といった本質的な成果を保証するものではないためです。
採用に強い企業は、給与額で勝負するのではなく、「働きたいと思える役割設計」と「候補者にとって魅力のある価値提案の明確化」に重心を置き、自然と人材が集まる環境づくりに取り組んでいます。過度な給与上乗せに頼らず競争力を高めるためには、報酬額ではなく「明確で納得感のある価値」を提示することが鍵になります。
給与はシグナルにすぎない ─ 意思決定を左右する総合的価値
報酬は採用プロセスのなかで最も目につきやすい要素ですが、特に経験豊富なプロフェッショナルにとって、給与は唯一の意思決定要因ではありません。
候補者が評価するのは「総合的な価値」であり、そこには以下が含まれます。
役割と期待値の明確さ
任される範囲や意思決定権
リーダーシップの質と支援体制
学習機会・成長機会・将来性
柔軟で持続可能な働き方
組織の方向性や安定性
これらが具体的で信頼できる形で提示されている場合、候補者は市場水準の給与でも納得しやすくなります。一方、情報が曖昧なままでは不安が増し、その「不確実性の補償」として高めの給与を求める傾向が強まります。
役割設計が軽視される理由と、給与高騰を招く構造
多くの組織では、役割が曖昧なまま採用活動を進めてしまい、最終的に高い給与を提示せざるを得なくなっています。候補者が高額を求めるのは、次のような「リスクを感じる状態」が原因です。
業務範囲が広いのに優先順位が不明確
タイトルと実際の権限・影響範囲が一致していない
成果指標(成功の定義)が曖昧
成長機会が暗示されるだけで、具体的な道筋が示されていない
役割や期待が不明確であるほど候補者の不安は大きくなり、給与はそのリスク補償として跳ね上がります。
明確な役割設計がもたらす効果 ─ 給与の上振れを抑える
良い役割設計は、候補者が最も知りたいポイントに明確に答えます。
自分は何を担当し、何を担当しないのか
最初の半年〜1年でどのように評価されるのか
現実的にどのようなキャリアパスが描けるのか
意思決定は誰が、どのプロセスで行うのか
これらが明確であれば、候補者は給与水準だけでなく、役割とのフィット感・影響力・成長機会を重視するようになります。
役割設計は人事だけの仕事ではなく、最終的にはリーダーシップの責任領域です。給与の過度な上昇を防ぐうえでも、最も効果的な手段のひとつと言えます。
プロフェッショナルが給与以上に重視する5つの価値
多くの候補者は、短期的な給与額よりも「長期的価値」を重視して意思決定を行います。特に重要視されるのは次の5要素です。
1. 組織の成長性
成長戦略や持続可能性、自分の役割との連動性が明確だと、不安が軽減され、高額給与を“安全装置”として求める必要が薄れます。
2. 社会的意義・目的(パーパス)
企業が解決しようとする社会課題や価値創出の実態は、強い差別化要素になります。
3. 個人の成長と適性
スキル開発、強みの発揮、キャリア資産の蓄積といった「成長実感」は、短期的な給与より大きな価値となります。
4. 柔軟で持続可能な働き方
時間・場所・働き方の裁量は組織の成熟度や信頼の象徴と受け止められます。
5. 専門的な評価と市場での信頼性
役割を通じて得られる実績や可視性は、将来のキャリア価値を左右します。この点を重視する候補者は多く、給与以上の動機となります。
これらの価値が明確であるほど、給与期待は安定します。不明確な場合、候補者はリスクを感じ要求額は高まりがちです。
過剰な給与提示がもたらす“隠れたコスト”
高い給与を提示することで短期的には採用が成立しても、長期的には次のようなリスクが生じます。
社内の給与バランスが崩れる
実務とのギャップにより早期の給与再交渉が発生する
役割と給与の不整合からモチベーションが低下する
12〜18か月以内の早期離職が増える
一方、価値提案と役割理解が一致したうえで採用された人材は立ち上がりが早く、パフォーマンスも安定し、定着率も高い傾向があります。
持続的な採用競争力を高めるための優先順位
採用に強い組織は、常に次の優先順位で意思決定を行っています。
スピードより明確性を優先する
給与交渉より先に役割設計を固める
交渉前に提供価値を丁寧に伝える
報酬は重要ですが、「曖昧さを補う手段」ではなく「明確さを補強する要素」として機能させています。
優秀人材を惹きつける本当の競争力とは
優秀な人材を惹きつけることは、候補者に低い報酬を受け入れさせることではありません。
重要なのは、信頼でき、魅力的で、明確に定義された役割と価値を提示することです。
役割設計が明確で、価値が早期に伝わり、期待が揃っていれば、給与は不確実性を埋める調整材料ではなく、意思決定を後押しするプラス要素に変わります。その結果、採用判断は確信を伴い、交渉は公平で納得感が生まれ、定着も安定します。
市場との認識のズレを修正するには、一度立ち止まり、現在の採用要件や価値提案を見直すことが有効です。コンサルタントは、リアルタイムの市場情報、役割の調整、候補者視点を提供することで、「給与に頼らない採用競争力」の確立を支援しています。
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